“きらめき”
お前の髪は夜空みたいだな。ずっと月みたいに綺麗だと思っていたヒトの有明月の様な唇から、ほろりと零れ落ちた言葉にどきりとした。夜明け前の空気みたいな、透き通って優しい声色だった。そんな優しい声を出すヒトだなんて、思いもよらなかったから他の人の声だったろうかなんて目線を彷徨わせてしまった。けれど、深夜の河川敷には、僕と彼女の二人以外誰もいるわけがなかった。
向かい合う彼女の白い指先が、俺のコンプレックスである重たい癖のある横髪を梳いているのが視界の端に映っていた。彼女がやけに楽しそうにしているから僕はただ彼女が満足するまで立ち尽くす他なかった。
真夏の夜にしては、涼しい風が吹き抜けていく。ふくふくと月みたいな白い頬を膨らまして彼女は笑っている。
十年以上前、友達の友達みたいな関係だった彼女と唯一、二人きりで話したのは引っ越しをする前日の帰り道ことだった。
憧れの彼女と二人きり、という事実に浮かれきった僕は、何を話そうかと考えすぎた結果、気づけば空に浮かぶオリオン座を指さしてオタクの早口語りを披露していた。今、こんなことを言いたいわけじゃなかったのに!どうにか軌道修正をしようと試みたものの、彼女が心地よい相槌を打ってくれるものだから結局別れ道まで僕の口は止まらなかった。
また、話を聞かせてね。そう言って背中を向けた彼女に、僕は何も言えずに引っ越してしまった。
二度と会うことはないのだろうとしまい込んだはずなのに、淡い恋心はまた鼓動を刻み始めた。
どうしようと見上げた夜空には、夏の大三角がキラキラと瞬いている。一人で見上げてきたどんな夜空より、彼女と二人見上げたあのオリオン座より、ずっときらめいているように見えた。
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“星空”の続き?みたいなもの
9/4/2024, 11:15:29 AM