安達 リョウ

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相合傘(隣人にご注意)


「すげー雨だなあ、通り雨でこれはキツイな」
「だよね。まさかこんなに降るとは思わなかった」

……………。

「………お前さ、なに普通に人の傘入ってきてんの」
「え、そう言わずにさ。後で何か奢るから、入れてよお願い」
承諾もしていないのにしれっと隣に居座る図々しさ。
人畜無害な顔とは裏腹になんと図太い神経よ。
「何で俺なんだよ、他にもいるだろ傘持ってるやつ」
「えー旧知の仲じゃん」
いつから!? ねえいつから教えて!?
「幼馴染み蔑ろにすると痛い目に遭うよ」
「もうそれ脅迫だろ、学校一のモテ男が言っていいセリフじゃねーよ」
呆れた口調で返すと、減らず口だなあとのんびりと返される。
いやそれお前だから。


「よりによってお前と相合傘なんてツイてないわ」

―――歩きながら隣でぶつぶつと不平を漏らす。

こいつは男の俺から見ても幼い頃から顔立ちが抜群に良かった。それはもう、周りからのちやほやが絶えることがないくらいに。
見た目“中の中”でしかない俺はそれが本当に面白くなくて、幼馴染みではあったけれど極力こいつとは関わらないようにしてきたのだ。
………なのに何だこの状況。親友かよ。

「まあまあ。僕だってできるなら可愛い女の子と相合傘したかったよ。お前だけじゃないんだから」
「善意で入れてもらってる分際でそれ俺に言う!? だいたいお前ならその辺の女子に声かけたら喜んで傘入れてくれただろうが。だから何で俺なんだって聞いてんの!」

ああ嫌だ嫌だ、ああ言えばこう言う。
顔の良いやつはどうしてこう言葉巧みなのか?
顔面詐欺で泣く女が増える前に自重しろ、自重。

歯噛みする彼の鋭い視線は、完全に僻みでしかない。

「そのシチュエーション………」
つと、幼馴染みの足が止まった。
「叶えられそう」
「は?」
?と思い傘を少し上げると、前方にこれまた相合傘をしている一組の女子の姿。

見覚えがある。
その内のひとり、彼女は―――。

「じゃあここからは希望のシチュエーションでいこう」
「は!?」
「あの二人、家の方向の分岐点があそこなんだよね。で、どういう計らいか僕らも一緒。てことで、お解り?」
お、お解りって………

おーーーい!

―――笑顔で気さくに手を振る幼馴染みに、俺はぎょっとする。
「お、おい!」
「………。嫌だった?」
意味深に口端を上げるその様子に、背筋が寒くなる。
こいつまさか、知って………!

「これで奢るの相殺ね♪」

耳元に口を寄せて囁かれた一言に、俺は膝から崩れ落ちそうになるのを辛うじて我慢する。

―――楽しげに鼻歌を歌う幼馴染み。
―――弱みを握られたと動揺を隠せないでいる俺。

元から自分より一枚も二枚も上手な隣人に、俺は降参するより成す術がなかった。


END.



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どうにも拙い文章ですが、これからもあたたかい目で読んでもらえたら幸いです。

6/20/2024, 3:26:34 AM