青波零也

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 本当にそいつはルーズなやつで、僕は今日も待ち合わせ時間から30分は遅れてきたそいつを睨む。
 けれど。
「ごめん! ほんっとーにごめん! この通り!」
 心底申し訳ないという顔で、両手を合わせて深々と頭を下げるそいつを見てしまうと、なんだかいちいち怒るのも馬鹿馬鹿しくなって、溜息をつくことしかできない。
 毎度のことなのだから、少しは反省してほしい。いや、反省だけでは意味がなく、なんなら反省はいらないから改善だけを頼みたいのだが、どうにもこのルーズの塊には伝わらないとみえる。
 すると、そいつは顔を上げて、「あとさ」と口を開く。
「それでも、待っててくれて、ありがとう」
 当然のことだ、ここで僕が帰ったら君だってひとりで途方に暮れていただろう、どちらもいい気持ちにはなれまい。
 とはいえ、当然と思っていたところに告げられた感謝の言葉は、待ちの間ですっかり冷え切った体にあたたかく響いたのも、確か。
「どういたしまして」
 それはそうと、次はせめて15分くらいの遅れにしてもらいたいものだ。僕だって別に暇じゃないんだぞ。


20250214「ありがとう」

2/14/2025, 2:01:59 PM