『秘密の場所』
このまま泥濘んだ道を歩き続けたら、せっかくおろした靴が駄目になってしまう。
何度か口を開きかけ、その度に閉ざしてきたが、もう限界だ。
そもそも、なぜデートでこんな山道を歩かされなくてはならないのか。
これまでに数え切れないくらい二人で出かけてきたが、こんなところに連れてこられたのは初めてだ。
恋人が何を考えているのかわからずにいると、ふと前を歩く足が止まった。
「着いた」
嬉しそうな顔で振り向かれても、絆されてはいけない。
一言文句を言ってやろうと、口を開いて――固まった。
なんと見事な。
見渡す限り一面の花。それも澄んだ青一色。
まるで空の上にでもいるような。
「ここは秘密の場所なんだ」とはにかんだかと思うと、突然手を取られた。
ああ、やられた。これはアレだ。
ロマンティックさの欠片もないと思っていた人に、真剣な眼差しで見つめられて。
こんな美しい場所で請われたら、うんと頷くしかないではないか。
3/9/2025, 8:36:45 AM