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お題 やわらかな光


真っ暗で何も見えない。
何日、何週間、何ヶ月?
どのくらいここにいるかも分からない。
暗くて狭い何も無い部屋。

だが度々お客が来る。
ゆっくりと重い扉が開き
ぼやっと光が差し込む度に暗がりに慣れた目が
眩しいと主張する。
そして小さな少女がそっと中へ入ってくる。

...また、来たのか。

このところ毎日、だろうか。
触ればすぐに崩れてしまいそうなおにぎりを持って
私のところに来る変わった少女がいた。
少女は笑顔で私におにぎりを差し出して私の前に座る。
そしていつものように楽しそうに話し出す。
私は、そっと頷くだけで特に何も話してやった事は無い。
だがその少女はそれでも楽しそうに楽しそうに話をする。
今日あったこと、昨日あったこと。
私が外の世界を知らないとでも思っているのだろうか。
私に教えるように、言って聞かせるように、
色んな話をする。
少女は私が話したいから。と言って来てくれているが概ね私のためだろう。
ここに来るのも容易ではないはずだ。
毎日、おにぎりを作っては大人の目を掻い潜ってここに忍び込む。
それだけでこの少女は本当に心の優しい人間なのだとわかる。
次第に私は少女が来るのが少し楽しみになっていた。
ここにいたってなんの代わり映えもしない真っ暗な世界があるだけだ。
楽しくなかったとしても、少し気晴らしにはなっていただろうが。

少女は私を怖がらない。
少女は何も知らない。
少女の優しさが、明るさが真っ暗な私を照らす。
だが、もう救われることは無い。
私の結末は決まってしまっているのだ。
だから、どうか今この瞬間だけは、その自分の結末を忘れて
このやわらかく、あたたかい光に包まれていてもいいだろうか。

10/17/2024, 5:11:22 AM