午後三時すぎ、
洗濯物が乾きはじめる頃、
風が吹いていた。
静かな風だった。
けれどその輪郭には、うっすらと色がついていた。
空の青よりも、少しだけ冷たい青。
青い風は、
あらゆるものに等しく触れていく。
咲きかけの花に、
壊れかけたポストに、
うまく話せないままのふたりにも。
風に名前があるなら、
それはたぶん、
忘れられた思い出のひとつだろう。
口に出せば消えてしまうような、
それでいて確かにここにある何か。
誰も気づかないふりをする。
けれどその風を浴びた午後には、
どこかに小さな影が差し込む。
ふだんなら笑えるようなことも、
少しだけ黙ってしまうような日。
青い風は通り過ぎる。
誰のものにもならずに。
しばらくして、空が深くなる。
7/4/2025, 2:13:24 PM