微睡 空子

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薄暗闇の中で見るその寝顔が好きだ。

普段は言動がとにかく煩すぎるのも相まってそこまで気持ちが行き届かない事も多いのだが、そもそもこの男は客観的視点で言えば結構な男前の分類である。

はっきりとした男らしい顔立ちで、すっとした目は所謂大人の色気がある。それでいて、これは本人には言いたくないのだが、笑った顔は見ているこちらまで明るい気分にさせる魅力がある。

だが、この男は何も考えていないように見え、実は寸分の隙も無い聡い男である。

それはかつての仕事がそうさせるのか―――

時折ごく稀に、この男はその煤竹色の瞳に鋭い眼光を宿す。
その瞬間は、いつもうるさく叫び笑っているこの男とは全くの別人かの如く、冷徹な顔を覗かせる。

俺は、それが大嫌いだ。

俺の知らない世界を視ているから。
突然遠くに突き放されたような感覚を覚えるから。

カーテンから差し込む月光を背に眠る男の顔をそっと覗き込む。
柔らかな表情。普段の笑顔ともあの冷たい顔とも違う、とても穏やかで優しい顔。


数々の表情、与えられた言葉、何気ない仕草―――それら無数の乗法から人間は、互いに想い合っているという確証を得る為の"心と心の証明"を得たがる。


心と心の証明。不安定且つ限りなく不明瞭なものである。だが、そんなものに安心感と幸福を覚え縋り付く俺は、己が思っているよりもこの男に依存しているのかもしれなかった。

12/12/2024, 4:14:28 PM