ヒロ

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すっかり帰りが遅くなってしまった。
人手が足りない上に店舗の仕事も増えるばかり。仕事終わりにどこのお店にも立ち寄れない日が続くのは、一日の終わりに癒しもなくてちょっと寂しい。
お総菜や休みの日に使う食材を物色するのが帰り道の楽しみなのだが、明日は早く帰れるだろうか。

最寄駅までの道すがら、空を見上げる。
今の季節だと、ちょうど正面にオリオン座などの分かりやすい星座も見えたりするはずだが、今日はさっぱり分からない。
ただ黒一色の空。曇っているのだろうか。
月すら見当たらないので、電車が来るまでの時間ポチポチと調べてみた。
どうやら新月も近いようで、夜空が暗いのはそのせいもあるようだ。
「つまらないな~」
電車を降りて、街を歩く。
深夜近く、お店も閉じて人通りもまばら。
月明かりもない中、ただ家へ帰る。
家族が待っているとはいえ、こんな遅い時間に帰るのはやっぱり寂しい。

明日こそ。明日こそは早く帰るぞ。
夕方からミーティングがあるのは承知しているが、それでも可能な限り早く帰りたい。
お総菜を買って、夜道の中 星空か、月の満ち欠けを楽しむくらいの余裕が欲しい。
漸く少しだけ顔を出した細い月に、淡い期待を込めて家の扉を開けた。
「ただいま」
「おかえり~。遅いわね~」
取り敢えず今はご飯かな。
そしてお休み。また明日。


(2024/03/07 title:010 月夜)

3/7/2024, 9:55:01 PM