<キャンドルの煙のように> (キャンドル)
ジジッ。
キャンドルが小さく鳴きながらゆらりとゆれ、ふと我に帰る。
背が高かった白い蝋の塊が半分程の大きさに崩れ始めていた。
あぁ、もうそんな時間か。
古びた表紙を静かに閉じ、ティーカップに口を付ける。
すっかり冷め切った紅茶で舌を目覚めさせ、足元でうとうとしていた、温かで小さな生き物にそろそろ寝ようかと声をかけた。
キャンドルと空になったカップを手に立ち上がる。
にゃぁ、と追いかけて来る声を聞きながら、カップを等閑に片付け、ひやりとした廊下に足を進める。
あぁ、明日の予定はどうだっただろうか。そんなことをぼんやり考えながら寝室の扉を開けた。
家主より数歩早く、真っ暗で冷え切った部屋にキャンドルの温もりと小さな影が滑り込む。
にゃっ、と真っ先にベッドに飛び乗った彼は、さっさとベッドを暖めろと言うように、ふさふさの尻尾を振りながら丸まった。
小さく息を吐きベッドに腰を下ろす。
ゆらゆらと揺れる灯りに、今日の疲れを乗せた吐息をかけ、キャンドルの微かな煙を目で追いかける。
ベッドサイドテーブルの上。アンティークな時計の横に、ことり、とキャンドルを置き、冷えた布団に体を預けて、小さな寝息に耳を傾けながら、今日を終わらせた。
明日もこんな夜を過ごせると当たり前のように思っていたのに。
全てが夢だと気付いたのは機械的な電子音と自動で開くカーテンによって差し込む朝日に叩き起こされた時だった。
昨日置いたはずのキャンドルはiPhoneに変わり、温かだった彼は姿を消した。
あぁ、現実に帰ってきてしまった。
11/20/2024, 8:14:53 AM