外へ出た。外は思ってたよりも明るく、空一面に宝石を散りばめたみたいに星が光ってた。
足元からカシャカシャと愛犬の爪が地面を引っ掻く音がついてくる。普段リードを繋げばどこへもなく引っ張るのにリードがない方が大人しい。まさしく相棒のように足元にぴったりついてきてこちらを見上げている。
めったに車の通らない田舎の車道を堂々と歩く。
私は悩んでいた。皆と同じようにできないこと、普通ができないこと。足りない頭に知識を詰め込んでも、まだ「普通」には程遠いのを感じて不安でたまらなかった。
世の中には私の知らないもので溢れていて、私一人が何もわからずに孤立している。誰に聞いても教えてくれる人はいなかった。きっと、皆は生まれつき知っているのだ。私だけが知らされずに生まれてきてしまったのだ。
そんなことを考えてはいつも憂鬱になる。
はあ、これではわざわざ外に出てきた意味がない。
私は一旦、足を止め空を見上げた。白い息が大人が吸うタバコみたいに私の口から吐き出されていく。
透明な抜けるように透き通った空だ。手を伸ばしてみる。星に手は届かない。星たちが私を嗤っているような気がした。
手をおろし、再び歩き始める。
時折、足元を見る。とても祖先が野山を駆け回り獰猛に肉を探していたとは思えない、無邪気で優しい目がきょろきょろと楽しそうにあたりを見回していた。
最初に言ったように、リードをつければ散歩だとはしゃぐのに対して、リードをつけずに外に出せばはぐれないようにか。はたまた私に怒られるとわかっているのか、こうして私の足元をテケテケと歩いている。
時折、何かを見つけては離れたりするが私が足を止めたり軽く手を叩いたりすれば名前を呼ばずとも「なんですかい?」というような表情をして戻ってくるのである。こういった些か召使いみたいな動きは私にはとてもかわいらしく映る。
誰とも会うこともなく、かつ家族にすらも知られない夜の散歩は少し自由になれた気がした。
夜の散歩も案外良いものだな。そんなことを思いながら愛犬の方を確認する。先っぽだけ垂れた耳をヒタとたて、後ろの方を見て立ち止まっていた。その方向を見てみると、街灯に照らされて白猫が悠々と道を横切っているところだった。
私は軽く足を鳴らし、愛犬の注意をこちらに向けた。愛犬が私の不機嫌を悟ったのを見て、私は前を向き直って歩き出す。少し間をおいてから仕方なさそうに私の方へと向かってくる足音が聞こえた。
一言も話さない、足音だけの会話。私はこの時間をゆっくりと楽しみながら一歩一歩言葉を選ぶように、愛犬に寄り添わせた。
寂しい夜も君と一緒なら乗り越えられた。
(もういない愛犬へ、当時に書いた日記より)
6/20/2024, 10:27:32 AM