ミントチョコ

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ここにいれば大丈夫

私は屋上の貯水槽の影に座り込んでいた。

学校に居場所がない。
だから、ここでいれば、誰にも見つからない。

そうしたら、ここで空想をするんだ。

空にこのまま浮かんで、海外の好きな国へ観光したり、海の水を自由きままに操って、雪や雨を降らせたり。

そんなことを屋上で夢想する。


「何してんだ?」

「ひっ!」

思わず悲鳴が出る。
私が、座って空想していると、上から声がした。

天使?

こわごわ見ると、屋上にある貯水槽の横の何かの建物の上に横になっている3年の先輩を見つける。
上履きの色で分かる。
結構高いのに、どうやって登ったんだろう?
髪とか染めてて、明らかに校則違反だ。

「ご、ごめんなさい!!」

怖くて反射的に謝る。と、同時に、ここは私の逃げ場だったのに、もう来られないなという残念な気持ちになる。

「謝んなくていいって、何してんの?こんなとこで」

先輩は、一瞬起き上がると、そう言ってまた横になる。

「えーと、教室に居場所がなくて、お昼休憩とかここに来てるんです」

私は仕方なく打ち明ける。
だって、ここを去っても行く場所がない。

「ふーん、俺もここに良く来るけど、会わなかったな」

「ここ、本当は立ち入り禁止なんですよ」

私はもしかしてそう言えば来ないかな、と淡い期待を込めて、先輩のいる方向へと話す。

「じゃあ、邪魔されなくていいな。お前、教室居づらいの?」

先輩に微妙に話を変えられてしまった。これじゃあ追い払えそうにない。

「はい。人と話すの苦手で。未だに教室にいても友達いなくて1人だから、恥ずかしくてここに逃避してきてます」

「そうなんだ、じゃあお互い口外無しってことで」

「あ、はい・・・」

先輩そう言われ、私はまた、貯水槽の横に座り直す。
人がいると思うと、想像を自由に楽しめないな・・・。
気が散るというか、軽いストレスというか・・・。

「ここで何してるの?いつも」

ひょいっと先輩が不意に起き上がると私に問いかける。
それにしても綺麗な金髪だなぁ。
私はここまで潔いのも凄いなと思いながら先輩を見る。

「ええと、空想、とかです」

笑われるって思ったけど、もしかして、引かれてもう来なくなる可能性にかけてみた。

「空想ね、へーどんなの?」

意外にも先輩は笑わなかった。

私はこの屋上から鳥になって飛び立つとか、星になって世界を眺めるとかそんな夢物語のような話をした。

先輩は黙って私の話を聞いてくれてた。
そして、私の話が終わると、私の顔を初めて見た。

「面白いこと考えるんだな。俺には考えつかない。お前、発想力すごいな。俺もたまに考えるよ。屋上から落ちたら全て終わりに出来るんじゃないかって」

私は先輩の言葉にサァァっと青くなる。

「だ、駄目ですよ!自殺なんてっ!」

先輩は、私を見てクッと笑う。

「しないよ。お前と同じ空想だよ」

私は先輩を見て首を傾げた。先輩はずいぶん絶望的な空想をするんだな、と思った。

「えっと・・・」

何だか放っておけない気がした。
私は先輩を見て言う。

「先輩は、世界旅行ならどこへ行きたいですか?」

「旅行?あー、オーロラ見たいな」

「いいですね!じゃあ、オーロラ見に北極に行きましょう!空想ですけど・・・。氷の家を作って、かき氷シロップ持っていきましょうか?」

私が、そう提案すると、先輩は考えた。

「コートとカイロもいるんじゃないか?」

「そうですね!あ、カメラもいりますよ。ペンギンとかオーロラ、記念に撮りたいですよね」

「荷物が凄いことになりそうだな」

私と先輩は、空想でオーロラを見に行くツアーを体験した。

意外なことに、先輩と空想の話をするのは、とても楽しかった。
クラスメートには馬鹿にされたり、あしらわれたりで、馴染めなかったから。

ひとしきり夢中になって話すと、授業の合図のチャイムが鳴る。

私は名残惜しいと感じながら立ち上がった。

「先輩、お話に付き合ってもらってありがとうございました、授業があるので行きますね!」

すると、先輩は、上からヒョイッと軽やかに降りてきた。

私がびっくりしていると、先輩は、私に焦ったように話しかけてくる。

「次、いつここに来る?」

「え?えーと、昼休憩は大抵ここにいますけど」

私が、答えると、先輩は、頷いて言う。

「また、空想の話、聞かせてくれないか?俺の空想は暗すぎて憂鬱になるから」

そう言われて私は凄く嬉しいと感じている自分に気づいた。

「はい!いいですよ、私も話すの楽しかったです」

思わず笑顔になる。

「そうか、良かった」

先輩が笑う。何だか笑顔が眩しい。

「じゃあ、また明日来ますね」

私は少し照れながら挨拶をした。

「ああ、また」

先輩にお辞儀をして、屋上のドアを閉める。
屋上にいく楽しみがより増した気がする。
学校でこんなにワクワクするなんて、いつぶりだろう。

私は早く明日にならないかな、と考えたこともない思考を頭に思い浮かべながら午後の授業へと向かった。

2/27/2024, 4:58:18 PM