「帰るの?」
終電の時間に遅れるからと、よく磨かれた革靴を履く背中に声をかける。
「走れば間に合うわよ。」
終電、乗り遅れちゃえばいいのに。
額に触れるだけのキスを落として、また来るからなんて、優しげな笑顔で言う悪い男。
次はいつ会えるの。
待ってる。
「別に来なくていいわよ。」
毎度泊まってはいかない貴方が、私に隠してること、分からないとでも思っているのかしら。
他の女の元へ帰って行く姿を見送ってしばらくは、いつも胸の奥が重くて痛い。
でも、そんなことは、絶対に口にしない。
貴方への気持ちも、貴方の嘘も、全部、全部。
「バイバイ。」
私にとっては、何でもないもの。
(何でもないフリ)
12/11/2023, 3:58:23 PM