それはまさに青天の霹靂だった。
(重大な事実を知ってしまったかもしれない)
アンネは不吉な予感に身震いした。しかし、この事実を他人に広めるわけにはいかない。それこそ、親しい人にだって教えることはできない。誰にも知られないうちに、原因を対処しなければならない。
でも、どうしたらいいのだろう。対処はせねばならないが、自分はそれについて、まだ全然知識が足りない。この街をひと月も滞在して、当たれそうなものには全て当たってみたが、それだけではどうしようもない。
アンネは人知れず決心すると、荷物をまとめ始めた。まずは大きな都市に行って、図書館がないかどうかを探さなくては。
コンコンと扉がノックされて、部屋の扉が開く。ナハトが中に入ってきた。
彼は荷物をまとめている彼女を見て、小首を傾げた。
「あ、そろそろこの街、出る?」
ナハトは自分の体質のため、あまり一ところに留まらないようにしていた。しかし、アンネの旅に同行して、もうひと月も同じ街に滞在している。
何かこだわりがあるわけでもないので、景色がよかろうが悪かろうが、治安がよかろうが悪かろうが、住みよかろうが住みにくかろうが、ナハトにとっては関係なかった。しかし、やはりひと月も滞在していると、少しは居心地もよく感じてくるし、愛着も湧いてくるというもの。
アンネは申し訳なさそうに眉を八の字にした。
「はい。……済みません、長居をしてしまって」
「別にいーよォ。結構気に入ってたし」
思いがけないナハトの言葉に、アンネは目を見開き――再び目を伏せた。
「済みません……その、急に出ると言って……」
「だから別にいいって。いちいち謝ンなよ」
彼はそう言うと呆れたように肩を竦めた。
アンネは頭を下げると、荷造りを再開した。収集した研究資料をどう詰めるか悩んでいると、横からにゅっとナハトが顔を出した。
「何、これ?」
「……えっと“未来への鍵”ですかね」
彼女の答えに、ナハトは興味なさそうにふうんと返した。
決意を秘めたアンネの横顔は、逆光を受けて、まるで強い輝きを放っているかのようだ。
1/10/2025, 9:56:32 PM