おさしみ泥棒

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 リビングのドアを開けたら、トナカイの化け物が立っていた。正確にいえば、トナカイのマスクを被り、茶色の全身タイツに身を包んだ成人男性が、である。
 化け物は「メリークリスマス」と言った。

「クリスマスは過ぎたから、森に帰ってくれ」

 俺は言った。すると化け物は俺の両肩をがしりと掴んで、首を横に振った。

「俺の中ではまだ終わってない」

 マスク越しの声はくぐもって聞こえづらい。俺は化け物のツノをひっつかんだ。被り物を上にずらすと、見慣れた男の顔が現れる。

「年が明けたなんて信じたくない。俺の心はまだ、クリスマスの中にいるんだ」

 男はひどく切実な目をしていた。
 この男は無宗教のくせに、クリスマスというイベントを異常なまでに愛している。そして毎年、だいたい数週間くらいはクリスマス気分を引きずって、このような奇行に走る習性がある。
 新年早々、トナカイのコスプレをした同居人を前にしても驚かない程度には、俺は奴の奇行に慣れきってしまった。年がら年中、この変人と一つ屋根の下で生活を共にしているのだから、無理もない。

 チキンを貪るトナカイの横で、俺は餅を焼くことにした。世にも奇妙な新年の幕開けである。
 来年の今ごろまで、俺は果たして正気を保っていられるのだろうか。新年の食卓にて、トナカイの化け物二匹が並んでチキンを食らっている光景が頭に浮かんで、恐ろしくなった。

【テーマ:新年】

1/1/2026, 12:58:26 PM