つぶて

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楽園

二十年に及ぶ探究の果て、私はついに楽園を見つけた。
それは我が家に存在した。場所は玄関から南へ3m、西へ50cmの地点、柔らかな二枚の物体、俗にお布団と呼ばれるものの狭間に、それはあった。だが、楽園は常にそこにあるわけではなかった。発見が遅れたのはこのためだ。楽園に身を委ねるためにはいくつもの所作法が必要だったのだ。
まずは食事である。来たる寝落ちという礼式を乗り越えるために行う。献立はなんでもよいが、幸福度を高めるためハンバーグかオムライスが望ましい。次に入浴である。耳の裏までしっかり洗わなければならない。続いて歯磨きだ。フロスを全ての歯間に通さなくては歯磨きといえない。
これらを踏まえ、ようやく寝室への立ち入りが許される。予め、布団の四隅が整っていることを確認し、お供えものとなる一冊の本とコップ一杯の水を枕元に置く。
そして身を投じる。楽園モード!と高らかに詠唱した後、滑り込むように侵入する。侵入は競泳選手またはウルトラマンを理想とする。腕と脚を直線上になるように意識し、布団の根本から一呼吸のうちに潜り込む。
最後に読書を始める。この時、スマホの目覚ましをセットしてはいけない。ここが肝心であり、最も重要なポイントとなる。楽園に時は必要ないのだ。時間という呪われた固定観念から解放されることで、楽園は完全となるのだ。
さて、ここまで書いて実際にやってみたのだが、布団に頭隠して尻隠さず状態になりとても恥ずかしかった。

4/30/2024, 6:33:53 PM