谷間のクマ

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《今を生きる》

「……あれ蒼戒、お前まだ教室いたの? 次生物教室だぜ?」
 とある日の授業の間の休み時間。俺(齋藤春輝)は生物教室から忘れ物を取りに来たところ、もうすぐ授業が始まるってのに教室にいる双子の弟、蒼戒の姿を見つけて言う。
「……あれ、そうだったか」
「そ。実験やるんだって。お前も行かなくていいの?」
「そうだすっかり忘れてた……。急がないと……」
 蒼戒はそう言って慌てて立ち上がる。
「また生徒会?」
 俺は蒼戒の席の机の上に散らばった書類を見て言う。
「……まあそんなところだ」
「と言うことは生徒会ではないな」
 俺は経験から判断して言う。蒼戒がそんなところ、と曖昧な言い方をする時は、別のことに気を取られていた可能性が高い。
「お前な……。人のこと疑うのも大概にしろ」
「ごめんごめん。で、どしたの?」
「……少し、考え事をしてただけだ」
 蒼戒は生物の教科書を持って生物教室に急ぎながら言う。
「……姉さんのこと?」
 俺はそれを追って生物教室に向かいながら問う。
「……なんでわかるんだ」
 蒼戒はギクリと立ち止まってこちらを見る。
「んー、強いて言えば経験、かな」
「は、はぁ……」
 俺たち双子には姉がいた。ずっと前に、死んでしまったけれど。蒼戒はその姉さんによく懐いていたから、今でもこうして悩んでいることがある。そういえばそろそろ8月。お盆になる。お墓の掃除してやらなきゃなー。
「別にこれでどうこう、ってわけじゃないけどさ、授業にゃ遅れんなよ? 俺たちがいるのは《今》だ。授業中くらいは《過去》に縛られてるわけにゃいかねぇ」
「……わかってる……」
「どうだか。……お前あんま顔色良くねーよ? 頑張るのはいいけど、絶対無茶だけはするな」
 ちなみにこいつは一度疲労でぶっ倒れた前科があるので油断はできない。
「……わかってる」
 とりあえず生物教室に着いたので、この話は一旦ここでお開きになった。
(おわり)

なんかめちゃくちゃー……
2025.7.21《今を生きる》

7/21/2025, 9:56:39 AM