「5月9日のお題が今回のお題のほぼ類似で、『忘れられない、いつまでも。』だった」
5ヶ月前は雪降る地方からの上京者が東京の地下鉄に乗るハナシを書いた。
某所在住物書きは過去投稿分を確認して、一応コピペのズルは可能だと云々。
意外とこのアプリ、過去のお題と類似したものの再登場が複数回存在するのである。
特に雨ネタが(空が泣く、雨に佇む、通り雨等々)
「忘れられないお題っつったら『私の名前』よ」
物書きは言う。7月21日頃のお題である。
「『名前』でどうやって物語組もうって、悩みに悩んで、結果として、うん……」
そういえば去年は、ともかく長いお題が複数個連続したことがあった――今年は別のものに差し替えられていたため、遭遇することはなかったが。
――――――
最近最近のおはなしです。都内某所のおはなしです。某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売ったり、お母さん狐が店主をしている茶っ葉屋で看板子狐をしたりして、人間の世界を勉強しておるのでした。
そんな稲荷のコンコン子狐、忘れられない味があるのです。「伝説の稲荷寿司」です。
稀代の稲荷寿司職人、もとい職狐、
5代ごやんが代を娘にゆずり、自分の職狐狐生に幕を下ろすにあたって、子狐住まう稲荷神社に奉納した5種類55個の稲荷寿司です。
うなぎをひつまぶしのように詰めたうなぎ稲荷、
口当たり良い栗で秋を追加したスイーツ稲荷、
松茸の香りも、旨味も、全部閉じ込めた松茸稲荷、
それから王道な稲荷寿司に、5代目の好物にして「狐の『食べたい』そのもの」とも称された、狐の食欲をバチクソに刺激する稲荷寿司。
それらはすべて、稲荷の神様に捧げられました。
それらはすべて、稲荷の神様も楽しまれました。
で、その5種55個の稲荷寿司が、稲荷の神様のご賞味から離れてシモジモの狐たちに下げられてからが、子狐の稲荷寿司パーリーなのです。
「おいしい、おいしい!」
ばくばくばく、ちゃむちゃむちゃむ!
コンコン子狐、まだまだ子供なので、食べ物に対する執着と欲求が抑えられません。
仕方無いのです。元々狐の子供というのは、ウルペスウルペス・ヤポニカにせよシュレンキにせよ、
それはそれはもう、すごく、食いしん坊なのです。
「おいなりさん、おいしい!」
ばくばくばく、ちゃむちゃむちゃむ!
コンコン子狐、本能的食いしん坊に従い、
55個の稲荷寿司に顔を突っ込み、55個の稲荷寿司を食欲突っ走るままに胃袋におさめて、
デカいサイズの55個の稲荷寿司、その5分の1を1匹して、ぺろり、たいらげてしまいました。
さて、ここでお題回収。コンコン子狐が食べた、5代ごやんが作った最後の稲荷寿司。
「『最後の』稲荷寿司」なのです。これを食べてしまったら、これとまったく同じ味の稲荷寿司は、もう食べられないのです。
二度と食べられない「最後で最高の稲荷寿司」の味を覚えてしまった子狐は、
忘れたくても忘れられない「幻の稲荷寿司」の味に恋してしまった子狐は、
その味を、知らなかった子狐には戻れないのです。
「おいなりさん!伝説のおいなりさん食べたい!」
ぎゃあん、ぎゃあん!コンコン子狐、5代目の稲荷寿司が忘れられず、文字通りギャン泣きです。
しまいには、「あの味を作る狐がもう居ないなら、自分が作り方を覚えてやる」と。
「伝説のおいなりさん、キツネ、作り方おぼえる!
5代目ごやんさんに、でしいり、してくる!!」
狐のイラストがかわいい風呂敷にお泊りセットを詰め込んで、5代目のおうちに直談判、
その直前まで、行ってしまいました。
狐の執着ってすごいですね。
結果として子狐の弟子入り作戦は未遂に終わり、
子狐の熱量に影響されて、6代目ごやんが先代の稲荷寿司を徹底研究。
完全再現とまではいかずとも、子狐が自分の餅売りのお小遣いで週に1回食べに来る程度には、
至高かつ絶品の稲荷寿司を作りましたとさ。
おしまい、おしまい。
10/18/2024, 3:01:45 AM