【声が枯れるまで】
誰もいないがらんどうの舞台で声を張り上げる。爆撃で床のあちらこちらがひび割れ、壊れた照明器具の転がる荒廃したステージの上。夜空に浮かぶ月だけが、私を照らし出していた。
どうか、どうか、旅立っていった愛しい人にこの歌声が届きますよう。貴方が好きだと笑ってくれた歌が、少しでも貴方の心を慰めてくれますよう。
愛しているよと囁いた貴方の腕の温度を思い出して胸が詰まる。掠れて震えた声を誤魔化すように声量を上げた。この声が枯れるまで、私は歌い続けよう。全身で、全力で、恥ずかしくて結局言葉にすることの最後までできなかった想いを。
(私だって、貴方を愛してたんだ)
目尻から溢れた涙がぽとりと、焼けこげた床を濡らした。
10/22/2023, 5:38:18 AM