テツオ

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DSを手に取り、ゆっくりと口を開かせる。
最後まで開かなきゃ、大丈夫だったっけ。

「う」

カチッ!しかし不覚にも、狭い寝室、無情にも、鳴り響く音。
昼間であれば、蚊の音より小さいのに、今は深夜。
猛獣が聞き逃すハズはなく……
バチッと目を見開く音が、背中ごしに聞こえてきそう。

間髪いれずに布団をガサッとめくられ、「あんたこんな時間になにしてんの!」
胃まで響く母ちゃんの咆哮。
たぶん、家のどっかにヒビ入ったよ。
父ちゃんも耳に指をずっぽり入れて、唸りながら寝返りをうつ。

手のひらにすっぽり収まる、ネイビーのDS。
母ちゃんの怒鳴り声も、そのカッコイイフォルムを見つめていれば、ないも同然だった。

「3DS!」

なに!顔を上げると、夏日がまぶしく、目が眩んだ。
しかし、木陰のベンチに座るレンの手の中には、太陽よりもっとキラめく白色があった。
おれはすぐさま駆け寄って、「ホントだ!ずりー!」
その白色に魅了されたのは、おれだけじゃない。
レンはもう公園中の子供心を、その手に輝く物ひとつでジャックしていたのだ……

「なんかゲームやって見せろよー!」

ころころ輝くネイビー色のDSをベンチに置いて、おれはレンの画面を覗き込んだ。

「マジで今こんな画面なの?」
「うん。おまえも買えよ!」

緑の帽子に猫目型のリンク。
それが今や、青い衣装をまとい、圧倒的な草原のグラフィックを、まるで本物の人間のように、レンの手の中にある画面をひた走っている。

Switchだ!
それはまたも時代を震撼させ、子供たちを冒険へかりだしてくれた。
帰ったら、父や母にも教えてみようか。

グジャーッ!と、とんでもない音が鳴り響く。
見ると、ショベルが丁度寝室に侵入している。

「はあー」

持ち出したネイビー色のDSを手に持ち、解体されていく懐かしき家を眺める。
そこら一帯の田畑はいつのまにか工場になって、新築の家は並びたち、初めて3DSを見た公園は古く寂れて、子供たちもろくに遊ばない。

ゆっくりとDSの口に手をかけ、慎重に開く。
寝静まった静かな寝室、父のいびき、母の寝言、それらの邪魔をしないよう、息を殺して……
クニ、と。
DSの口はなんの音も立てずに、あっけなくもガパッと開いた。

スカされたような気分で、真っ黒い画面を見る。
DSを持つ時、親指はどこにやってたか、どう持っていたか、意外に覚えていなかった。
電源をいれ、たまたま入っていた、どうぶつの森を起動してみる。

『こんにちは
遊びに来たんですね』

1/19/2024, 2:19:47 PM