私の妹は不思議な子だ
色々な物語を思いついては、書いていく
その物語というのが、すごく新鮮で、よく思いつくなというものばかり
それに、まるで別の人が考えたみたいに、どれも全然違う内容、作風なのだ
それだけなら、才能があるんだな、と思って終わりだった
妹は物語を作るのが早いし、同時にいくつかの物語を並行して考えている
考える時は、集中したいのか、部屋に入ってこないでほしい、と言って閉じこもったまましばらく出てこない
不思議なのはここから
ある日、部屋から独り言が聞こえてきた
聞く気はなかったのだけど、最初の一言が気になって、つい、盗み聞きしてしまったのだ
「この次は、そうそう、このセリフだった」
考えていたセリフを忘れたのかと思ったけど、なにか違う気がした
それで魔が差して、聞き耳を立てたのだ
次に妹はこう言った
「このあとの展開は最高だったなぁ
ツツムラ ユタカ先生の本気って感じで」
誰かの作品でも読んでいるのか
でも、何か作業をしている感じがする
読みながら、作業をしている?
もしかして、妹は誰かの作品を書き直しているのでは?
そんな嫌な考えが浮かんだ
なにしろ、あれだけの物語を同時に作っているのだから
でも、仮にそうだとして、ひとつも有名でないはずはない
妹の作品は、それだけレベルの高いものだったから
私はそれなりに漫画も小説も読むけれど、妹の作品はどれも他で見聞きしたことはなかった
今言ったツツムラ ユタカ、という名前も、あとで調べたけどそれらしい人は一切出てこなかった
本当に、不思議だ
私は、妹になにか秘密があるような気がした
とはいえ、なんとなくそれを詮索するのは躊躇われた
言いたくなったら、言ってくれるかもしれないし、打ち明けることがなくても、それは別に構わない
ただ、あの子が好きなことを好きなだけできれば、それでいいと思う
そういえば、今日は七夕だ
妹の誕生日でもあるから忘れてた
いつもは七夕なんて、誕生日のおまけ程度で、特に何もしてこなかったけど、なぜか今年は願い事をしたくなった
願い事は、妹が幸せでいられますように
私は自分が書いた物語を、姉に読んでもらうのが好きだ
自分の作品を褒められたいのではなく、面白いものを誰かと共有したい、という思いからだ
私の書く物語は私の考えたものじゃない
けど、この世のどこを探しても、この作品の元となるものは見つからない
あれは七夕で、私の誕生日だった
世界はひどい有様だった
あちこちで災害や争いが起き、私の国も大変なことになって……
そんな中で私はひととき、現実逃避していた
ストレスが溜まっていたのだと思う
私の家では誕生日の陰に隠れてしまう七夕
それをちょっとやってみようと思った
笹は手に入らないから紙で作り、短冊も何枚も作った
さっき言った通り、本当にただの現実逃避だったのだ
こんなふうになったらいいな、という
私がとりあえずした願い事は……
このひどい世界が、幸せな世界に生まれ変わりますように
私の好きな作品を、次の世界でも見られますように
生まれ変わった世界でも、家族や友達と一緒にいられますように
私のやりたいことを好きなだけできますように
少し欲張り過ぎかも、と思った
でも、どうせ叶わない現実逃避だ
他にも好きに書いてやれ
そう思ったて書いていたら、短冊が輝いた
同時に、なぜか誕生日の曲が頭の中に響く
そして、気づいたら、とても平和な世界にいた
家族や友人もいたけど、私とは別の記憶を持っていた
前の世界の記憶を私だけが持った状態で、世界は生まれ変わったのだ
けど、そこに私の好きな作品たちはなく、少し落ち込んだ
ただ、作品は全て完璧に、私だけが読める形で頭の中に残っていたことに気づく
ホッとしたと同時に、私はそれを使ってやりたいことができた
私自身がその作品を書いて、みんなに広める
四つ目の願いの効果か、私はありえない速度で複数の物語を書いていった
今は姉にしか見せてないけど、そのうち、色々な人に私の好きな作品たちの面白さを伝えていければと思う
あの時、どうして私の願いは叶ったのだろう
叶ったのだから、理由を考えても仕方ないけど
もしかしたら、織姫と彦星が、誕生日プレゼントとして、短冊の願いを叶えてくれたのかな?
そういえば、私は最後にやけくそで、織姫と彦星がまたずっと一緒にいられますように、とか書いた気がする
そのおかげだったりして……
7/7/2025, 11:39:22 AM