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夜が、誰にも追いつけないほど深くなった頃、布団に入り目を閉じる。
子どもの頃から何よりも安心できる、私だけの時間。
世界からは音が消え、やっと息ができる。

「また明日」
そう友達は簡単に言う。

私は、明日なんか来なければいいのにと思っていた。

目が覚め、最初に耳に入る使い込んだ目覚まし時計のアラーム。
そして、家族の言い争う声。
祖母が母を、母が祖父を、祖父が祖母を、罵り合う声。
携帯からは友達からのメッセージを知らせる通知音。
妹の啜り泣く声。
これが私の『明日』。
毎日毎日、同じ明日がやってくる。

寝ても寝なくても、明日は世界に平等にやってくる。
でも、全ての事柄は公平ではないとも思い知らされる。

朝日を燦々と浴びて囀る鳥。
他の鳥の鳴き声と共に、庭の木から飛び立ったであろう羽音。自由の音。
能天気な友達からのメッセージ。
「帰り、ゲーセン行かね?」楽しそうな声。
私を取り囲む音は、軽やかでカラフルな音でさえも、重たい音が全てを黒に塗り替えてしまう。

幾度となく明日が来ても、私自身は明日に進めない。
世界に置き去りにされたと思うようになったのは、もういつからなのかすら分からない。
黒く重たい音が、明日に進もうとする私の足に枷をつける。

誰にも追いつけない夜にぶら下がり、目を閉じる。
布団の中で背を丸め、やっと息をする。
嫌でも来てしまう明日と向き合うのが怖くて、昨日のカラフルな夢の続きを考える。

明日を、精一杯もがいて生き抜く。
そんな夢の続きを考えている。


5/22 また明日

5/22/2024, 1:18:53 PM