「もう、行くのか?」
成瀬が来年東京に行く、そう聞いたときは実感が沸かず適当に流していた。別れの言葉も、俺の気持ちも。
…去年からわかっていたはずなのに、なぜ俺は言わなかったのだろう。
「ねぇ、遥斗…」
名前を呼ばれ、はっと顔を上げる。これが最後のチャンスだ。
しかし俺の声は俺の意思に反抗し、発したはずの言葉には音が乗らなかった。
「あの、な。成瀬…俺、」
それでも無理矢理音を乗せた声で俺は言う。
「…っ俺!成瀬のことが」
そこまで言い、顔をあげる。すると、電車のドアが閉まっていくのが目に入った。
「遥斗…ばいばい」
俺が、最後まで言えなかったばかりに……。言えたら、"またね“とその言葉が聞けたのだろうか。
過ぎていく電車を横目に、俺はホームを去った。
そんな、やるせ無さだけが残る夏だった。
#やるせない気持ち
8/24/2024, 4:36:39 PM