昔、ここらで大きな戦争があった。国の勝利のため、村の女子供まで戦場に駆り出され、あえなく殺されていったのだ。後にその魂を供養するため、村の跡地には大量の墓石が建てられたという。
「でも、今になってはそれすらも無くなってしまったわけだけどね」
「どうして?」
眉を寄せた娘は父親に尋ねた。
2人は荒野となった村の跡地に立っている。
「噂によれば、何者かが持っていってしまったらしいよ。理由は分からないけどね」
「ふーん」
娘は平坦な返事をした後、静かに目を瞑った。黙祷しているのだろうかと、父親が娘の顔を覗き込もうとしたその瞬間、
「あ」
ふいに娘が目を開いた。
父親はあわててのけぞり「どうしたの」と尋ねる。
「聞こえた。声が聞こえたの」
「声?」
「生きてたんだね、本当に」
それだけ言うと娘は歩いて行ってしまう。
何が何だか分からず、首をかしげながらその後をついていく父親の背を、太陽は優しく照らしていた。
9/23/2024, 2:30:17 AM