とりとめもない話
ある年の暮れのこと。大掃除をしている最中に出てきた古い日記帳を読み返して、貴方のことが書かれているページをひらいた。
「12月15日。午前中、カフェ。Kと、とりとめもない話をした。なんだか私達らしい。そのまま2時間話して解散した。」
と書かれてあった。
たぶんKが、貴方が仕事の都合で日本を離れる前日のことだったと記憶している。
あの日に話したことも、今となっては遠い昔の話。形のない、古ぼけてもやがかかった夢のようだ。
この笑いも、この悲しみも、世界の何処かで永遠にループし続けるのだろうか。きっと、少しだけ形は変化するんだろうけど、根本の形は変わらないのだろう。
そんなとりとめのないことを考えていると、不意に貴方の声が脳の奥底でこだました。
なんでいま、思い出してしまうのだろう。貴方と会うこともほとんどできないのに。心の奥がしぼんで、きゅっと縮んで、よくわからない、原因不明の苦しさが体中を駆け巡る。
きっと貴方は私を一人の女性として見てはいないだろうし、どんなに近づいたって、磁石のS極とS極みたいに反発しあって、永遠に近づくことはできない。
あなたの声。優しい。空に浮かぶ雲みたい。夏祭りで貴方とふたりで食べた綿あめみたいなやわらかさ。
その優しい声で私を包んで、離さないでほしいと心から願う。
私の想いは永遠に届くことはないけれど。
これも私の幻想、夢物語。
だから、もう少しだけ、甘酸っぱい冬の夢を見させてほしい。
そう、ねがいたい。
12/17/2022, 11:52:35 AM