三日月

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溢れる気持ち

 
 ずっと好きな人がいる。 

 その人はバイト先の先輩で彼女持ち、普段彼女の話もするので二人の仲がとても良いことが伺えるから、時々私は嫉妬してしまう。

 ところがその先輩は誰にでも優しい、特に女性にはやさしくて、そんなにも世界一愛しているという自慢の彼女がいるのに、 優しく接したくるのはルール違反というかなんというか……。

「お仕事後ご苦労さま……ほら、これ飲んでイイよ」
「あ、ありがとうございます」

 狡いくらい優しい先輩は、時折飲み物までご馳走してくれるし、時折「お仕事疲れたでしょ」って甘いお菓子何かも渡してくれる。

 これが私だけではなく、バイト先の女の子全員に程よくしているのだから、先輩からしたら普通のことなんだろうけど、特別にされているように気になってしまうのはどうしでだろう。

 好きな気持ちが溢れ出て……ずっと伝えたくて仕方が無いのに……でも、伝えたら迷惑なことが分かっているから、伝えられなくてもどかしい日々が続いている。

「あのさ、ユキちゃん、そんなに先輩のこと好きなら自分の気持ち伝えたらイイじゃん」
「で、出来るわけないでしょ」

 一緒にバイトしてる仲間の子に言われたけど、そんなことやっぱり言えない……。

 ところが、それから数週間後、その子も先輩が好きだったようで、しっか自分の想いを伝えた様子……気付いたら先輩と付き合っていた。

 それを知った後、悔しい気持ちが入り交じりながら、私が逃げるようにバイト先を辞めてしまったのは、溢れる気持ちを伝えられなかったからかもしれない。

 溢れる気持ちを私が先に先輩に伝えていたら、先輩は私と付き合っていましたか?

 バイト先を辞めてしまった日の帰り道、それはもう聞くことが出来ないけれど、次に好きになった人にもし彼女がいたとしても、今度はちゃんと伝えようとユキは青空を見上げながら心に誓うのだった。

――三日月――

 


2/6/2023, 3:21:40 AM