春とともに、君がいなくなった。
なんてありきたりな物語だろうか。
出会いがあれば別れがある、それは誰もが知っている痛みだ。月9の主題歌からアニメ化した少女漫画のエンディングにだって存在する痛み。
ずっと想像していた。
君がいなくなったら私はどうなるだろうか。これでもかというくらい悲しむ準備をしていたし、空想の中では既に何度も君が私の手を離した。だから絶対に大丈夫だと信じていた。実際にはその何倍も痛みなんてなくて、残ったのはからっぽの心だけだ。無駄に悲しむ練習をしていたな、と自分を笑ったときが、それ以来初めての笑顔だったように思う。
君がいなくなった日は、桜の開花予報の日だった。
「桜が咲いたら、一番に見に行こう」
冬のある日、赤いチェックのマフラーを巻いて柔らかく微笑んだ表情を今でも忘れない。私はそんな君の言葉を真剣に信じていたし、今日のために生きていたのだ。
開花したばかりの桜は、当たり前だけど満開ではなかった。私は花の専門家などではないのでひとつの桜の木にどれだけの花が咲くかなんてことは知らないけれど、100/1くらいしか花開いていなかった。
一番に見に行ったって、こんな大したことのない景色だったのに。君はあんなにも嬉しそうに笑っていたのか。
生まれたばかりの花びらを間抜けに見上げていると、私の右肩を春風が掠めた。それは冬に比べて温かいはずなのに、ずっと冷たく感じた。君はいつも右側を歩いていた、理由は知らない。
君と見るはずだった桜は、きっと次に足を運んだ頃には全て散っているだろう。だけどもう一生、咲かないでほしい。私の桜は、君だけだったから。
3/31/2025, 1:44:44 PM