たぬたぬちゃがま

Open App

知ってる?ボトルメール!
そう言って彼女はボトルメールのwikiを見せてきた。
「いまは不法投棄とかうるさいから無理でしょ……。」
「はい、正論〜!なんだーもう。」
膨れっ面になった彼女の頬をつんつんとつつく。
「観念してゲームのボトルメールで我慢しな。」
「ロマンがない……。」
彼女はこう、突拍子もなくロマンチストなことを言う。ある日はストリートアート、ある日は公園でスケボー練習。
事あるごとに正論を返しそれをなあなあにしてきた。やれ、持ち主に許可取らないと捕まりますよ、だの。やれ、誰がタイヤで汚れたベンチや手すりに触りたいですかね、だの。うるさいことはわかってはいたが、実際にそれで残業になり、へべれけになりながら母に泣きつく父を見てきたので、公共物を汚す行為はあまり許容したくない。公共のものを直すお金は公共のお金なのだ。
「うーん。リアリスト。」
「ロマンチストには理解できませんかね。」
話は噛み合わないのに、居心地はなぜかよかった。凸と凹みたいだね、と笑ったのは君で。


手紙はフェリーの甲板から投げた。紙飛行機のように折られたそれは、少し宙に浮いた後海へと落ち、波がさらっていった。
あの手紙が、彼女に届きますように。
子供を助けて亡くなるなんて、ロマンでしょ?
そうおちゃらけた声まで聞こえてきそうで。
なにがロマンなものか。美談にするな。残された人の人生が続くのを考えたことがあるのか。
ロマンチストな彼女は、そう詰められてもニコニコ笑うんだろう。いつまでもこだわっているのはリアリストな自分だけなのだ。
だから、あの手紙は、どうか、彼女の元へ。行くはずもないと1番わかっているの自分だというのに。


【波にさらわれた手紙】

8/3/2025, 6:31:17 AM