朱里は、深夜の田んぼ道をひとり歩いている。
辺りに街灯はなく、スマホのライトだけが頼りだ。
今にも雨が降り出しそうな空は、やがてゴロゴロと音を立て始めた。
「あー、疲れた」
今日も給料の発生しない残業をこなしてきた。
最近は業績が底を突いているらしく、上司はピリピリだ。
働き方改革とか国が声を上げているけど、こんな田舎は
いつまでも昭和おやじばかりである。
急な雨に興奮した蛙がけたたましく鳴き出し、さらに苛立ちが増す。
まあ、そんなことはどうだっていい。
明日は3ヶ月ぶりの休日だ。ゆっくり寝てやる。
早歩きで歩いていると急にライトが消える。
充電切れかな、さっきまで結構残ってたのに。
すると目の前に薄い影のようなものが現れた。
おかしいな、灯りなんてどこにもないのに影が見える。
微かに見えるそいつの口がにわかに微笑んだかと思うと、ゆっくりと、いや段々スピードを早めて近づいてくる。
「キャー!!」
来た道を全速力で走って逃げるが、圧倒的にあちらのほうが早い。
とにかく、誰かに助けを…。
すると丸い小さな家が観えた。
ここに匿ってもらおう
激しくドアをノックする、がその音は無音の暗闇に応えるばかりだ。
ついに影が追いついてきた、もうだめだ…。
跡形もなく朱里は姿を消した、と同時に家から老人が顔を覗かせる。
「うまくいったかね、樹液細胞くん。」
「はい。これが最後でした。とりあえず治療は終了です。」
「ありがとう、本当に助かったよ。」
「はい、肺がんはいつ起こるかわかりませんから、困ったらすぐ呼んでくださいね。」
そうして、彼は去っていった。
これは誰の身体でも起こり得ることです。
気を付けてくださいね。
2/10/2024, 12:06:39 PM