「現在見ている太陽の光は、8分前の光。「おおいぬ座」のシリウスから届く光は、7年前。知ってた?」
彼は病室で、持参したクッキーを食べる私に自慢げに言った。
知らなかったが、どこかで聞いたことあるような話だったので「ネットで得た知識をそんな鼻高々に話さないの」と一蹴した。
いわゆる職場恋愛をし、同棲を開始した直後に、彼の膵臓に癌が見つかった。
彼はとても前向きで明るい性格の為、病人という感じが全くなく、私自身も彼の病気は治るものだと信じきっていた。
彼の両親も私に気を遣い、病気が治らない事は知らされていなかった。
3ヶ月後、私にとっては、唐突に。
彼は亡くなった。
暫くしてから、ひとりでは広すぎるマンションの片付けをゆっくりと始めた。
始めは呆然としながら、動いて止まってを繰り返し、ゼンマイ仕掛けの人形のように彼との思い出をしまい込んでいった。
ある程度高価そうな物は、ご両親に返すように荷物をまとめていく。
それまで触らなかったラップトップのPCを念の為開ける。
私宛の手紙が挟まっていた。
中には「食器棚の上の棚の一番右」と書かれていた。
食器棚の上の棚の一番右を見ると、また手紙が挟まっている。
次は床下収納。その次は洗面台の下、また更にその次はクローゼットの中など、次々と指示に従い手紙を探していく。
彼に導かれるように私は「彼」を探した。
最後は、私が大切にしていたアクセサリーケースの下に封筒があった。
開くと、笑顔の私達の写真が入っており、その裏には、
「また会えたね」
と、彼の優しいまる字で、書かれていた。
題;また会いましょう
11/13/2024, 8:16:56 PM