今日のテーマ
《窓越しに見えるのは》
「また見てるの?」
「別にいいでしょ」
熱心に窓の外を見ているのをからかうと、彼女は拗ねたようにぷくっと頬を膨らせる。
数ヶ月に及ぶ片想いをやっとの思いで成就させたんだから、こんな風にこそこそ盗み見てないで堂々と近くで応援すればいいのに。
そうツッコミを入れようかと思ったけど、実際にそんなことをしたら噂されたり冷やかされたりしそうだからこれはこれで正解なのかもしれない、と思い直す。
傍目にはまどろっこしく思えるけど、恋愛のペースは人それぞれ違うのだ。
彼女達がそれでいいなら外野が口出しするのは野暮というものだろう。
熱心に恋人の姿を眺める彼女につきあうように、私も前の席を拝借して窓の外をそっと窺う。
夕陽を浴びて友人の彼氏が全力で駆け抜けていく。
青春だねえ、なんてどこかのおばちゃんのような気持ちで見ていたら、その後ろから猛然と追い縋ってくる姿が目に止まった。
テレビの退会で見るような綺麗なフォームに思わず目が引きつけられる。
「ああっ、抜かれちゃった!」
残念そうな友人の声も耳を素通りしていく。
あっという間に友人の彼氏を追い抜いてゴールしたのは、どうやら彼と同じ部の上級生だったらしい。
熱心にアドバイスしているのが窓越しにも伝わってきて、そんな様子にも気が引かれる。
いつのまにか、私は友人よりも熱心に、彼らの様子に見入ってしまっていた。
「……あの先輩、去年全国大会まで行ったんだって。彼が憧れてるって言ってた」
「そうなんだ」
「私も顔しか覚えてなかったんだけど、名前、聞いといてあげようか?」
「え?」
「顔真っ赤だし、恋してますって顔してる」
さっきの意趣返しのつもりだろうか。
からかうようなその声に、ますます頬が熱を持つ。
まさか、という思いと、やっぱりそうなんだろうか、という思いがシーソーみたいに行ったり来たりする。
気のせいか、なんだか息まで苦しくなってきて、私はひんやりした窓にコツンと額を押し当てた。
「ずっと一方的につきあってもらってて悪いなって思ってたけど、今日からは一緒に見てられるね」
嬉しそうな友の声。
その間も、視線は件の先輩に釘付けで。
うずうずそわそわする胸を宥めすかして、私は黙ったままこくりと頷いたのだった。
7/2/2023, 9:15:23 AM