祖母が死んだ。
誰からも人格者、良妻賢母と褒められた祖母だった。
夫を立て、子には厳しく、孫を慈しみ、友人を大切にした祖母だった。
母と共に祖母の遺品を整理していると、一冊の分厚い手帳が見つかった。鍵付きの古い手帳だ。家中を探したが鍵は見つからない。
色褪せたそれを開ける術が無く、母と私はしばらく顔を見合せてどうしたものかと思案したが、捨てるのも偲びなかったので私が持って帰ることにした。
あれから一ヶ月。
私は手帳を前にカッターナイフを握る。
色褪せたその手帳がどうしても気になって、中を見たくて我慢出来なくなったのだ。
人格者と言われた祖母。
良妻賢母と言われた祖母。
非の打ち所が無いと言われた祖母。
そして、祖母のように讃えられたりはしないが朗らかで〝善良な〟母。
――ならば何故、孫の私は〝こんな〟なのだろう。
祖母にだって一つや二つ、シャツについたシミのような汚点があった筈だ。誰にも言えない黒歴史がある筈だ。ならばこの、鍵のかかった手帳に、きっと。
私は手帳のベルトの部分にカッターナイフを突き立てる。ようやく開いた手帳の中には、びっしりと、祖母らしい几帳面な字で、
黒歴史と言うにはあまりに残酷な物語、が。
綴られていた。
END
「閉ざされた日記」
1/18/2026, 4:10:42 PM