突然の君の訪問
長文です、すみません。
苦手な方などは素早くスクロールしてください。
半年ほど前、一匹の野良猫がこの部屋に毎日の様に通っていた。
初めて私の部屋に来た時、毛はボサボサで目はどこか哀しげだったその猫に、どこか自分を重ねてしまい放って置けなかったのだ。
その日からその猫は毎日私の部屋へ通う様になり、その度になにかプレゼントを持ってきてくれた。
ドングリや綺麗なお花、貝殻のなど。
沢山の季節の贈り物をくれ、そのお礼として私は家族に内緒で毎回ごはんを振る舞った。
いつしか私にとってその時間は毎日の楽しみとなっていた。
しかし、ある日を境にその猫は姿を見せなくなった。
私は不安だったが、もともと猫は気まぐれな動物だと言うし仕方がない事なのかもしれない。
この話を親にすると最初は「野良猫を部屋に入れないで。」と怒られたが、その後にこう言ってくれた。
「猫は昔から神様の使いって言うから、もしかしたら貴方に幸せを届けてお役目を終えたのかもね。」
それから半年、私の心のどこかにはぽっかりと空いた穴があって、その空洞が毎日少しずつ広がっていくのを感じた。
静かな部屋、しとしとと降る雨が窓ガラスに落ちる音がよく聞こえる。
この音は、私に梅雨の季節が来た事を知らせてくれた。
生まれつき身体の弱い私は、「雨は体に触るから」と梅雨の季節はろくに外に出たことはない。
私は外の景色を窓越しに眺めながら、ホットミルクの入ったコップを片手に読書をしていた。
雨が降り続ける中、窓の外に見覚えのある影がひょっこりと現れた。
私はその陰に目を凝らし、そして驚きと共に立ち上がった。
窓の外には、間違えなくあの野良猫が居たのだ。
私が急いで窓を開けると、木から窓に乗り移りちょこんと座った。そして、じっと私を見上げてきた。
「今までどうして…それより、体冷えたでしょう。今暖かいものを__。」
私は猫の濡れた体を拭くタオルを持ってこようとした時、ある事に気が付いた。
「あれ、どうやって濡れずにここまで来たの?」
私の問いに答える気はなく、猫は部屋の中に入ってきた。
そして、私の足にまとわりつき、柔らかな毛で私の足を撫でた。
「どうしたの、珍しい。」
この瞬間、私は自分がどれだけこの再会を待ち望んでいたかを実感した。
私は嬉しくなり、猫の頭を撫でようとする。
しかし、ひょいと避けられてしまった。
それからも、猫はずっと私の部屋に居座ったが一度を触る事はなかった。
時刻はすでに午後の九時を指しており、いつもならもうベッドに入っている時間だ。
けれど、今君から目を離したらまた消えてしまいそうな気がして、怖くて眠りにつくことはできなかった。
翌朝、私は窓からの優しい光で目を覚ました。
起きたら猫の姿はなかった。
けれど、机上に綺麗な花が昨晩の出来事は夢でない事を教えてくれた。
「これ、紫陽花。」
初めて触れたその花、この先一生私の心に残るだろう。
私はあとで飾ろう、そう思い優しく置いた。
「…あれ、昨日あげたミルク飲んでないじゃない。」
私は小さく、幸せなため息をつきお皿を片しにリビングへと向かった。
あの素敵な贈り物を最後に、君は永遠に私の前に姿を表さなかった。
8/29/2024, 9:56:56 AM