匿名様

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私とあの人は高校生の時に出会いました。
ええ、同級生です。その当時、クラスは違いましたが。
今思い返せば一目惚れだったのかもしれません。あの人をはじめて見かけた時、すごく綺麗な人だと思いました。背筋が伸びていて、耳触りのいい声で。教室移動中に窓から教室内を盗み見る程度しかあの人のことは知りませんでしたが、毎回その姿は強く印象に残っていました。

直接話すきっかけが出来たのは次の学年に上がってからです。運良くクラス替えで同じクラスになれたんですよ。私は舞い上がって、これは運命なんじゃないかとさえ思えてしまいました。それまでと比べたら関係値を築く機会は段違いに多くなりますから。
実際、私はあの人と在学中に間違いなく友人と呼べる、いえ、もう少しだけ上の距離間を得ることが出来たんです。何気ない雑談から真面目な相談、一人では抑えておけない秘密の話。私はそれらを聞く権利を得ました。休日に駅前へ遊びに行ったこともありました。どれも思い出深い青春です。忘れることなんてできるはずもないでしょうね。

ご存知の通り、あの人とは進学先も同じでした。これは偶然ではなく、私があの人と合わせて選んだ結果です。
ええと……はい、その、お付き合いを始めたのもその後ですね。改めて言葉にするとどこか恥ずかしくもありますが……。告白は私からでした。休日、いつも通りに遊びに出かけて、帰り際に好きだと伝えたんです。
いつか言おう、いつか言おうとインターネットで理想的なシチュエーションやら勇気の出し方やらを検索して、それらを事前に計画立てると余計に緊張してしまうと諦めて。結局あの人と過ごして安心し、高揚するときめきを持ったまま自然に、自分の言葉で伝えました。
そうしたらあの人は驚いた顔をして、それから甘酸っぱくはにかんで、自分もだと答えてくれたんですよ。
その時の喜びといえば、言葉では表現しきれないほどでした。だってその後は夢見心地で、どうやって自分の家に帰ったかさえまともに覚えていないんですから。

ええ。これが私の恋物語です。勿論、ほんの一部に過ぎませんが。あの人への思いの丈を全て語るには、あまりに私の持つ言葉が足りないのです。
自分のことながらよくできた、それこそ作り話のような展開だとは思います。それでも、全て私の記憶にある本当のことなんです。恋をすると世界が色づいて見えるというのも、想い人のことを考える度に胸があたたかく、時々ささやかな痛みを持って複雑にやがて幸せを構成していくのも、どれも本当のことでした。
出会ってからずっとあの人のことを見てきましたが、今でもあの人について知らないことはあります。全てを知りたいと思う反面、全てを知ってしまったら何か大事なものが崩れてしまう気がしてならないんです。
恋とは多少夢を見ているくらいがちょうどいいのかもしれません。難しいものですね。


ああ、そういえば。あの人、最近誰かにつけられている気がすると言っていました。怖い人もいるものですね。
え? ええ、大丈夫です。私ができる限りそばに居て、安心させてあげられればと思います。


【恋物語】

5/18/2023, 1:20:40 PM