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「眠れない」とぼやいているのが、最初はそんな
深刻なことのようには思えなかった。

僕には何も見えていない。昔からそうだ。
ほがらかで呑気で、誰よりも優しい、やさしすぎる君。幼い頃から僕の手を掴んで離さなかった彼女の手に、いつしか錠剤のゴミが握られるようになっていたことすら、気づくのは遅かった。

今やっと、深く眠りにおちている彼女の頬に触れることもできず、僕はただ、時がしんしんとめぐっていくのをまっさらな頭で感じている。

そういえば君は、絵本が好きだった。きっと今でも読んでいるはず。小学校の時、『よだかの星』の読み聞かせで泣いていたのを、男子たちに馬鹿にされていた。よく覚えている。

その命が燃え尽きるまで、空高く飛んでいったよだか。小さな星になった醜い鳥。優しすぎるその心は、地上にはもったいなかったのかもしれない。

どうすれば君を救うことができるのか、救いたいという感情がおこがましいことなのか。君が人を傷つけることを恐れず、君が傷つくことのなくなる世界はどこにあるんだろう。

その答えすらわからないのに、僕は君をわかりたいと思っている。身勝手でもなんでも、愚かでも醜くても、ただ、生きていてほしい。それだけなんだと、伝えたい。

いつ目が覚めるのかわからない君の命は、まだ燃え尽きることなく、くすぶっている。


9/15/2023, 9:48:23 AM