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お題『寒さが身に染みて』

夜の街は冬の冷気で満ちていた。
猪野は小走りで七海の横に並ぶ。手袋をしていても指先が冷たくて、思わず肩をすくめる。
「……さむっ、さむっ……七海サン、手つなご?」
「ええ、構いません。猪野くん、無理に走らなくても大丈夫ですよ」
七海は静かに猪野の手を取り、指先まで丁寧に包み込む。温かさがじんわり広がって、猪野は思わず息を吐いた。
「ん……あったかい……」
猪野は手をぎゅっと握り返して、ぐっと体を寄せる。七海も自然と肩を少し丸め、二人の距離がぐっと近づいた。
「七海サン……こうやってくっつくと、寒さがぜんぜん気になりませんね」
「そうですね。……君と一緒なら、私も寒さを忘れます」
雪がちらつく道、街灯の明かりが二人を柔らかく照らす。
猪野の頬は赤く染まり、七海はその可愛らしさに胸を締め付けられる。
「ねぇ……七海サン、もっとこうしててくれる?」
「ええ……喜んで」
七海がそっと猪野を抱き寄せると、二人は冷たい風を忘れ、ただぬくもりだけを感じて歩いた。
身に染みるような外の寒さも、冬の街の静けさも、二人だけの甘い時間に変わっていった。

1/12/2026, 8:32:38 AM