薄墨

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真っ青な花弁の真ん中に、猫の目のような黄色の雌蕊が冴え冴えと目を惹いた。
こんな小さくて不気味な花に託して大丈夫だろうか、そんな気持ちが、私の胸で断固と固まったはずの決意にかすめる。

決行は明日だった。
このぬるま湯みたいな贋物の幸せを打ち砕く決行日は明日と決めていた。

「君を幸せにするから」
そんな言葉がずっと嫌いだった。
自分の幸せくらい、自分で決める。捻くれていて、可愛げのない私は、その言葉を聞くたびに、いつも、そう思ってしまう。
幸せは自分で感じて初めて幸せとなるのに、それを他人の力でどうにかできると思っているのは、傲慢だ、と。
そんな風に。

だから、今目の前にある幸せは、贋物なのだ。
私を不憫に思った友人が、嘘を真実に作り上げて、現実を歪めて作り上げた今日までの幸せな日々など。

友人が、私に嘘をついた気持ちは、痛いほど分かった。
こんな不幸があるのか、というほど、私の今までは、側から見れば、散々だった。

父親への冤罪から始まって、母の精神病、転校、貧乏に、諦めた進学。
私の手から零れ落ちたものは、いろいろとあった。

しかし、その不幸がなければ、私と友人は出会わなかった。
それらの過去の不幸がなければ、私は今を幸せだとは思わなかった。

私の不幸は、それこそ並大抵の苦労ではなかったけれど、私が努力して掴み取った幸せは、完全なハッピーエンドとは程遠かったけど、それでも私は幸せだった。
なにより、私のために、禁忌を犯して幸せを作り上げるほどの友人と出会う幸せは、私が不幸でなければ有り得なかったことだった。

それを友人は、歪めてしまった。
私の幸せのために。
傲慢のために。

だから、私は幸せを終わらせることにしたのだ。
現実を歪めてしまった根源の私の未来を、断ち切ることにしたのだ。

最後の幸せな日の今日、私は勿忘草で花束を作った。
幼稚園児が描くような典型的に小さく白い勿忘草は、「私を忘れないで」。
黄色い雌蕊が冴え冴えと気味悪い、青い勿忘草は、「真実の愛」。

私は明日、自分の幸せを打ち砕く。
ぬるま湯みたいな贋物の幸せを。
私の幸せは私で決める。

それが私の、私たちの幸せなのだった。

2/3/2026, 10:11:28 AM