ちる

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眠る君の腕から抜け出して、君が脱ぎ捨てたシャツに腕を通す。
長すぎるその袖を三回折って、いつもよりゆっくり豆を挽く。

カップにそれが注がれるまでの数分間は、あたしが夢を見る時間。
溶けるほどの昨夜の情事と、それより甘い未来の夢。

部屋を香りが満たして、君が目覚めてしまったら、あたしは夢から覚めてしまう。

だからその前に、あたしはこの部屋を出ていくの。
淹れたてを一口だけ飲み込んで、残りはカップに残したまま。

目覚めた君があたしで満ちればいいと願いながら。

【コーヒーが冷めないうちに】

鍵のかかる音がして、僕は起き上がる。
部屋を侵す香りに気づきながら、夢に縋りついていた。

覚めないでと願ったのに、ゆっくりゆっくり冷めていくそれを僕はすべて飲み干して
もう一度ベッドの上で、溺れながら何度も彼女の夢を見る。

9/26/2025, 11:17:15 AM