仮色

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【愛を注いで】

「でね、これが『愛』が入ったポット」

この淡い桃色の、ハートの装飾がキラキラと光るポットが『愛』。
忘れないように、必死に頭に刻みつける。
青色が『悲しみ』、赤色が『怒り』、黄色が『希望』…色々教えられすぎて全部覚えられたか不安になる。
先輩にもう一回教えてもらわないといけないかもしれない。

「『愛』はね、『悲しみ』よりもちょっと多めに注ぐの。そっとね、優しい気持ちで注ぐのがポイントよ」
「はい」

眼の前で『愛』を注ぐところを見せてもらう。
天使になって長い先輩は、手慣れた感じで地球に『愛』を注いで見せてくれた。
私に「優しい気持ちで」と言った通り、慈愛に満ちた優しい顔をしていて思わず見入ってしまう。

「すごい…」

私も早く仕事に慣れて先輩みたいな天使になりたいな、と心から思った。
新人天使の私には遠い未来なのかも知れないが。

「そうね、『愛』なら注ぎすぎちゃっても大丈夫だし、あなたもやってみる?」
「え、はい!」

どうぞ、と『愛』のポットを手渡される。
ポットは少し暖かくて、胸のあたりがふんわりと優しく包まれるような感覚がした。
先輩の真似をして、優しく注いでみる。

「わあ…」

ポットの中から出てきたふわふわとしたピンクの靄が、地球中に散っていく。
それを見て、胸が愛しい気持ちでいっぱいになった。

愛が届いた人に、幸せが訪れますように。

「…うん、とっても上手よ。直ぐに昇級できるんじゃないかしら」
「ありがとうございます!」

先輩に褒められて、思わずにっこりと笑顔になった。
この調子じゃあ私も抜かされそうね、と冗談を言う先輩に「まさか!」と本心を包み隠さず伝える。

「先輩みたいになれるようにお仕事がんばります!」

「ふふ、そう。頑張ってね」

笑い合う私達の横で、『愛』のポットからふよふよとピンクの靄が出てくる。

それは、知らぬ間に先輩と私の胸にすっと消えていった。

12/14/2023, 9:56:28 AM