ガタン……ゴタン……ガタン……ゴタン……
連結された隣の車両が時折、大きく揺れている。3両編成の液晶広告も流れない、素朴な昔の車両。
昭和の香りが纏う、旧式の扇風機がエアコンの風をさらに車内に届かせる為に、ゆっくりと首を振っている。
座席も久し振りに座るタイプ、四人が向い合せになり、窓にはとても小さなテーブルも付いている。
車窓を流れる景色は、いつか何処かで見たような、記憶の欠片に似ていた。暫く、海沿いの景色が続いている。反対側の車窓は、新緑に染まる緩やかな山、そして麓にはぽつりぽつりと民家が点在している。
随分、古いタイプの家だよなぁ……昔、何処かで……あっ!祖父が住んでいたところと似ているのか……
いまは過疎化が進み廃墟しかないが、祖父が住んでいた山間地域に似ていた。
まだこんな景色が残っているのか、懐かしいなぁ……たしか、よく遊んでいた従兄弟の友達がいたよなぁ。そうそう、あの青いトタンのスレート屋根に、隣は段々とした小さな水田が……えっ!あそこにいるのは……私たち……
いつからこの電車に乗っているのだろうか。
こんな単純な疑問も抱かないなんて。そもそも、駅に私はいただろうか。
私はどこから来て、そしてどこへ向かっているのだろうか。
恐怖に襲われて、逃げ惑い叫びたくなる状況なのに、不思議とそういう気持ちにはならない。
何故だろう……どこまでも美しい青い海が心を凪いでく。
『終点』
8/11/2023, 10:51:15 AM