思い出

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〔じいちゃん。じゃあ、またね。〕

私はそう言ってお祖父さんに笑いかけながら病室を出る。

「おう、またな。楽しみにしてるぞ。」

お祖父さんはニコニコとしながら、私に手を振った。
その、[またね。]の約束を交わした三日後だった。

〔あのね、おじいちゃんが、亡くなったって。〕

震えた声をした母親に告げられた。

それを聞いた途端、目の前が真っ暗になった。

じいちゃんが?亡くなった?だってこの前、元気だったじゃん。全然、そんな感じしなかったじゃん。
〔またね〕って、約束したじゃんか。

呆然としていると、母親に抱きしめられていた。

〔じいちゃんの、嘘つき。まだまだ話すことあったのに。
もっと、畑とかさ、遊ぶこととかさ、色々、一緒にしたかった。もっと、一緒に写真撮りたかった。なんだよ!
もう、出来ないじゃん。何も、できないじゃん!
まだ、ありがとうも、大好きも、全然言えてないのに!〕

私は、母親に縋り付きながら泣き叫んだ。
落ち着いてからじゃないと、精神的に危ないとの理由で、
翌日になり、じいちゃんに会いに行った。

コンコン、とノックをして、
〔失礼します。〕
母親が言ってドアを開いた。

「お!よく来たなぁ。待ってたぞ。」

そんないつも通りの声を待つ私がいる。
何時までも聞こえない。怖くて顔があげられない。

〔この度は。〕
そんなお医者さんの声が聞こえたが、そんな事よりも、
部屋の中に足を踏み入れた私の視界に、布団が掛かっているまま、微動だにしないじいちゃんが入った。

息が詰まる。現実が、眼の前にある。じいちゃんは。

〔ごめんなさい。じいちゃん。もっと、大好きとかさ、
色々言えばよかったね。そうしたらさ、こんなに後悔しなかったかもなぁ。〕

気が付けば、じいちゃんの横に立っていた。
顔が、しっかりと視界に入る。

〔病気だって分かってたのにね、だけどね、じいちゃんならもっと一緒に居られるって、思い込んでたんだろうね。ホントにごめん。ごめん。ごめんなさい。ちゃんと、沢山言いたい事あったんだけどなぁ。〕

ボタボタと涙が零れ出る。
もう、じいちゃんは拭ってくれない。
「仕方ないなぁ。」って、頭を撫でてくれない。

〔時間もあったけどさ、言うとさ、さよならがどんどん近づいて来てるって、実感しちゃうから。ごめんね、我が儘でさ。こんなに後悔するなんて思ってなかったの。〕

さよならって言う前に、もっと色々言いたい事があったのになぁ。

〔じいちゃん、さよなら。ありがとう。大好きだよ。〕

もう届かない。言えなかった言葉が刺さって、
心が、痛い。

8/20/2023, 11:23:31 AM