ㅤ大人になったら、悩んだりしなくなると思ってた。いろんなことの仕組みがわかって、世界は広がる一方で。落ち込むことはあるだろうけど、なんたって大人なんだから。知恵もツテもあるはずだ。もちろんお金もたくさん。
ㅤ十四の頃、理由もなくそう信じていた。通学の道すがらすれ違う大人は誰しも、迷いなく格好良く駅を目指していた。人生が長い旅なら、彼らはきっと居るべき場所にもう辿り着いているんだと思った。
ㅤだけどそんなこと、ありえない。
ㅤ自宅の郵便受けを開けたら、チラシと請求書がドサドサ落ちてくる。ため息と共に数枚拾い上げたところで、手の中でスマホが鳴り出した。妹だ。
「もしもしっ……わっ!」
『え、なに?ㅤ大丈夫~?』
ㅤ応答した瞬間に指をすり抜けたチラシが、先程よりも盛大に床に散らばる。
「ありえない……」
ㅤ今どき会社に泊まり込みとか、本当に有り得ない。こんなに郵便が溜まるまで。
『あ、日付変わったよ。おめでと~!』
「ありがと」
ㅤ大台に載ったねえ、と言われ、全然めでたくないよ、と返す。妹は毎年このタイミングでお祝いの電話をくれるのだ。
「全然実感無いし。十四あたりで止まってる感じ、精神的には」
『中二かぁ。でも身体がね~、フォーティーンじゃなくてフォーティなんだよね、悲しいことに』
ㅤ脇に紙束を挟んで、妹の言葉に吹き出しながらドアの鍵を閉めた。出社する前と何ひとつ変わらない部屋の乱雑さになぜかホッとする。
ㅤひとつ歳を取っても、何も変わらない。思ってた以上に長旅の途中みたいだ。
『旅の途中』
1/31/2025, 12:25:53 PM