nameless

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⚠︎創作微BL




「キミのこと、もっと知りたい」
「…は?」

 いきなり、手を掴まれた。あ、この人、こんなに手柔らかかったんだ。ていうか、彼と話したこともない。だって、だって、僕はクラスで最底辺の通称陰キャと呼ばれるものだし、なんだって、彼は──

「あれ、神宮寺先輩だ」
「生徒会長…!今日は髪分けてるんだね」
「そいえば〇〇大受けるらしいよ」
「は?!やっぱすごいね…」
「神宮寺くんの隣にいるの誰?」
「今日もかっこいい……見てるだけでいい」
「隣にいるのうちのクラスのあいつじゃん。なんで一緒にいんの?……名前なんだっけ」

 そう、今僕の手を掴んでいるのは神宮寺。この高校の生徒会長。そんで、イケメンで、統率力もあって、祖父が学園への寄付をしているとかで。

 ここは購買だ。お昼時、たくさんの人が集まる購買で僕はたまごサンドを買う予定だった。たまごサンドに手を伸ばそうとしたら、後ろからにゅっと手が出てきて、それが神宮寺──彼の手だった。……どういうこと?僕が一番理解できていない。

「あっ、あの…….僕たち、注目、されて、ます…」

僕は必死に喉の奥から絞り出した声でそう告げた。神宮寺先輩は焦ったように、あっ、ごめんね。そう言って僕の手を離す。僕の指の先が、たまごサンドに届いた。

「良かったらさ、ご飯、一緒に食べない?」
「へ?なんて?」
「キミのこと、もっと知りたいから!」

 そう言った神宮寺先輩は、誰もが見たことがないような顔をしていた。顔を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに、目を瞑りながら。だから僕は思わず、はい…と肯定の返事をしていたのだ。

「えっほんと?!」
「あの…これ、買ってきていいですか」
「っあ。うん!じゃあ、そこで待っているから」

 先輩の瞳の中はまるで宝石箱のように輝いていた。僕とご飯を食べることがそんなに嬉しいのだろうか。僕のことを知りたいって、一体なんだろう。

 僕は様々な人から注目が集まってることを気にして、長い前髪をさらに手で押さえ顔を隠しながらレジに並んだ。たまごサンド。いつも見ているたまごサンドが、やけにキラキラに見える。

「神宮寺先輩、待ちましたか」
「……!!僕の名前、知ってたの?!」
「ええ、それは…生徒会長じゃないですか」

 神宮寺先輩は、あはは、恥ずかしいなと頭を掻いて笑いながら言った。彼の手にはお弁当が握られている。屋上行こうよ、そう言われて僕は無言で着いていくしかなかった。

「あの…僕のこと知りたいって、どういう…」
「ごめんっ!突然だったよね、びっくりしたよね、でも僕、キミと話してみたくて!」

 先輩は申し訳なさそうに胸の前で手を合わせた。なんで、僕みたいな陰キャでスクールカースト最下位みたいなやつに、声をかけたんだ。僕の頭の中はハテナマークでいっぱいである。

「……僕は、たまごサンドが好き、です」

 僕の手の中に収まっている、いつもよりキラキラと輝いてみえるたまごサンドを視界の端にとらえながら僕はそう言っていた。先輩は優しく笑って、僕も好き。そう言った。

3/13/2024, 10:14:30 AM