『君と出逢って』
私は空が好きだ。
雲でまばらに色付いた、吸い込まれそうな空が好きだ。吸い込まれそう、と口に出すと少し怖くなってくるのだけれど、怖いのと気持ちいいのは案外、紙一重だと思っている。ジェットコースターもそうだし、初めて人前で歌ったときもそうだった。だから吸い込まれそうな空というのも、きっとあちら側に着地したら、大きい綿菓子みたいな雲が優しくそっと受け止めてくれるのではないか。抱きしめてくれる、という言い方でもいい。空というのは怖くない。あれは、途方もなくおおらかな何かだ。
ところで、と話を変えるようで変えないのだが。
私はずっと、自分が空好きな人間だと思って生きてきた。晴れた日には上を向いて歩くし、窓際の席が好きだし、飛行機に乗ると離陸の瞬間からずっと外を見る。なかなか筋金入りの空好きだと自負していた。俳句を詠むわけでも、気象予報士の資格を持つわけでもないが、空に関しては一家言ある、そういう人間として、これまでの人生をそれなりに誠実に生きてきた。
ただ、先日、少し困ったことが起きた。
あなたのことを考えていたら、空が目に入った。いや、順番が違うかもしれない。空を見ていたら、あなたのことを考えていた。どちらが先だったか、もはやわからない。鶏と卵の話をするつもりはないし、する気力もない。ただ、その瞬間に気がついてしまったのだ。なんとなく、うっすらと、でも確実に。
本題に入ろう。
私が空を好きなのは、あなたの瞳が空に似ているからだ。
言い訳をさせてほしい。空を好きになったのは先で、あなたと出会ったのは後だ。順序だけは守っている。だから私の空好きは本物だし、これまでの人生における空への誠実さも揺るがない。ただ、今はもう、空を見るたびに少しだけあなたを思う。吸い込まれそうになる。怖くて、でも怖くなくて、向こう側に着いたら抱きしめてもらえる気がする。
空というのは怖くない、と書いた。
撤回はしない。
5/5/2026, 4:04:24 PM