命が燃え尽きるまで
最初は、何が始まりだったんだろう。
ただ、言われた通りの道を進んで、空気を読んで。
何も考えず、何も感じずに。
生きる意味なんて無い。ただ相手に印象がつけばそれでいいと思っていた。
そうやって、自分を覆い隠して数年。
消えかけた自分の意思を、
感情を
主張も
貴女が、灯してくれた。
娘が生まれた、彼女の世話をしばらく頼む。
そう頼まれ、迎え出てきたのは、人形のように整った顔立ちの女の子だった。
今までも年頃の女の子の世話を任されていたから、今回特に動揺した、ということは無かったが、
貴女は、私を見つけてくれた。
私は、自分の意思を言うことができない。
貴女は、一緒に考えてくれた。
遊びをする、勉強するにしても、私のことを最大限に優先してくれた。
私は、貴女が楽しければ、あとはなんでもいいと本当に思った。
貴女は、一緒に歩いてくれた。
私がどれだけ完璧な対応をしても、貴女は私の不調を見つけてくれた。そして、十分なくらいの休みを与えてくれた。
嬉しい時は一緒に喜んでくれた。
貴女は、寄り添ってくれた。
私が、幼い頃から雷が苦手だと言ったある夜のこと。
私と貴女、2人で雷雨を過ごした時。
家が停電した時。貴女はそばで抱きしめてくれた。
貴女も本当は震えていたのに。泣くのを我慢してそばにいてくれた。
全部、全部。
私は貴女の召使いなのに。
貴女より身分は下なのに。
もっと邪険に扱ってもいいのに。
貴女は私を大切にしてくれた。
貴女といれば、心が暖かくなる気がした。
でも最近は、貴女といなくても心が暖かい。
それはきっと、貴女が私に灯してくれたから。
何にも興味が湧かなかった私を、情熱的にしてくれたから。
この感情は、恋とか、愛とか、そんな言葉じゃ表せられない。
いま私は、この仕事の他に美容師を営んでいる。
貴女の髪を結う度に、心揺れる感覚があった。
それを貴女に話せば「興味があるんだよ」と笑ってくれた。
それ以来、資格を取る為にコツコツ勉強して、この間髪の毛を切ることが出来た。
貴女のおかげです。お嬢様。
貴女のおかげで、自分らしい自分が、わかった気がした。
貴女のおかげで、私の意思が分かった。
貴女のおかげで、好きなものがわかった。
お返ししたい。この恩を。一生かけて。
私は、この命をかけ、この思いが燃え尽きるまで。
あなたのおそばに、いさせてください。
そう願った思いを眠る貴女の手を両手で握り、伝わりますように、と願って、次に目覚めるのを待った。
次は、「おはようございます、お嬢様」と笑って言おう。
……いや、意識せずとも笑えているか。
9/15/2023, 12:59:11 PM