渋滞のテールランプは赤く燃えていて
地獄にあるという炎の河のよう
しかしまばゆいのは見かけばかりで
かざしてもかじかんだ指は少しも温まらない
排ガスのにおいとアイドリングのざわめき
ドライバーたちの苛立ちの気配
原付が無理なすり抜けをして威嚇されている
十二月も半ばになると忙しくなり
みんな気が急くのかギスギスしている
道路の両脇の歩道を歩く人々は
寒さに背を丸めて少し早足だ
日は暮れ果てて空は墨の色
針の先で突いたような微かな星
イルミネーションと称して電気コードを巻き付けられた街路樹は煌々として
ビルの窓にはずらりと残業の明かり
タクシーの後部座席に座った客が
イライラしながらスマホの画面で現在時刻をチェックした
どこかで事故でもあったのだろうか
渋滞は動く気配を見せない
時間はどんどん過ぎてゆき
気温はどんどん下がってゆく
ハンドルを握った指は寒さに痺れている
それに風がめっぽう冷たい
徐々に体温を奪われていって
体が勝手に震え出す
誰かが苛立たしげにクラクションを鳴らした
通行人の何人かが顔を上げて振り返ったが
止まらずにそのまま歩いて行った
遠くで聞こえる救急車のサイレン
沈黙している道路情報掲示板
私はひとり心静かに
好きな歌を小さく口ずさむ
フルフェイスヘルメットの中でなら
大声を出す必要はない
つぶやくように囁くように歌う
自分しか聞かない歌
自分を慰め励ます歌
自分のために歌う歌
炎の河の中に居ても、自らは涼しき者であれと
たとい身体は凍えても、心だけは寛いであれと
12/13/2022, 11:36:17 AM