何かしようかな、なんて公園のブランコを漕いでたら偶然演奏者くんを見かけた。
ピアノからは少し離れているから、あまりこっちの方までは来ないんだろうと予想してたから少し驚いた。
彼は公園から道を1本挟んだ団地の端に生えている色とりどりの花にそっと触れたり、眺めたりしている。
なんだかとってものどかで、ボクに向ける表情とはまるっきり違う。
別に違和感はない。
というか、ボクに対してあんな態度とってきた方がよっぽど面食らう。
例えば、彼に「演奏者くん、こんな所で奇遇だね?」なんて声をかけたとする。
いつもなら彼は「⋯⋯なんだい、邪魔者」とか「僕に話しかけてくるなんてどんな心境の変化だい?」なんて聞いてくる。
ところが今日に限って「ああ、権力者。いい天気だね」とか「きみに会えるかなと思ってこっちに来たんだ」とか言ってきたら。
⋯⋯⋯⋯なんか気持ち悪いな。
この世界に来た迷い子とかにはそういう態度を取ってるのを見たことがある。彼は迷い子をみんな外の世界に返してあげたいタイプだから、印象もなるだけ優しくなるように気をつけている、みたいに見える。
それと同じ態度をされたら。うん、なんか気持ち悪い。
ボクは彼の唯一の敵にならなきゃいけない。
だからそのためにボクは彼と仲良くなってはいけない。
ボクはブランコを漕ぐのをやめて、公園を出たところで彼に向かって声をかけた。
「やぁ、演奏者くん。ピアノを弾いてないなんて珍しいね?」
いつものように距離が近いわけじゃない。道を1本挟んでいる彼の心情を空気として読み取ることはできない。もしも心穏やかそうな彼から、バカみたいに明るい声が返ってきたら。
彼は振り向きもせずに答えた。
「なんだい、どこに居たって僕の勝手だろう」
ああ、良かった。いつもの彼だ。
それでいいんだよ、それで。
4/4/2024, 2:48:33 PM