タイトル: 「開けないLINE」
その日は、夏の終わりの蒸し暑い夜だった。遥香はいつものようにベッドに横になり、スマートフォンを手に取ってLINEを確認した。友人たちからのメッセージやスタンプが画面に表示される中、彼女はふと、見慣れない通知に気づいた。
「未読のメッセージがあります」
そのメッセージは、彼女がLINEを始めて以来一度も見たことのない奇妙な形式だった。通知をタップすると、見知らぬIDからのメッセージが一つだけ届いていた。誰からだろう? そのIDには名前がなく、ただ無機質な数字とアルファベットの組み合わせが表示されているだけだった。
「開けないで」
それだけが書かれていた。
「いたずらかしら?」遥香はそう思いながらも、不気味な予感が胸をよぎった。彼女はメッセージを無視することにしたが、スマホを置いても、どうしてもその通知が頭から離れない。
時間が経つにつれて、彼女のスマホはますます熱を帯び始め、何かが焦げるような臭いが漂ってきた。焦ってスマホを確認すると、再び同じメッセージが届いていた。
「開けないで」
そのメッセージを読むたびに、彼女の心臓は強く鼓動した。なぜか、まるで何か悪いことが起こるのを予感しているような感覚に襲われた。だけど、好奇心が勝ち、彼女はメッセージを開くことに決めた。
指が震えながらも、メッセージをタップすると、次の瞬間、スマホの画面が真っ暗になった。慌てて再起動しようと試みたが、画面は一向に戻らない。
その時、不意にスマホから、まるで誰かが遠くから彼女を呼ぶような低い声が聞こえてきた。「開けないでと言ったのに…」
突然、部屋の電気が消え、遥香は暗闇の中に取り残された。彼女の目は、真っ暗な部屋の隅に立つ黒い影を捉えた。影はゆっくりとこちらに向かって歩き出し、その姿が徐々に明らかになった。黒いローブを纏った人物が、まるで幽霊のように、彼女のスマホをじっと見つめていた。
その人物の顔が見えた瞬間、遥香は凍りついた。それは、数年前に亡くなったはずの彼女の幼なじみだった。「なぜ…?」遥香は声を震わせながら尋ねた。
「開けてしまったんだね…私の最後のメッセージを…」幼なじみの声が、不気味に響いた。「あなたに伝えたかった。開けるべきではなかったと…」
その瞬間、影はふっと消え、部屋の電気が戻った。遥香は息を呑み、スマホを確認すると、メッセージは消えていた。しかし、彼女の心には、永遠に消えることのない恐怖が刻まれていた。
あの日以来、彼女はスマホを手に取るたびに、もう一度同じメッセージが届くのではないかという不安に駆られるようになった。誰にも話すことができない、恐ろしい秘密を抱えたまま…。
9/2/2024, 4:12:19 AM