回顧録

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あいつの心が読めなくなったのはいつからだろう。
昔は分かりやすい奴だった。表情が万華鏡のようにコロコロ変わった。たった1つしか年の変わらない俺に子ども扱いされてむくれたり、かと思えば年下なことを全面的に出して奢らせたり、同い年になって喜んだり。一足先に歳を取る俺に「また置いていかれた…」と寂しそうにしたり。見ていて飽きない奴。
大人になっても我慢を覚えたとしてもそれは何も変わらなくて、お前のことならお前よりもわかると自負していた。

それが今分からなくなっている。
きっかけはハッキリしている。
一週間に一回合わなくなったからだ。むしろ十年それが続いていたのが奇跡だった。ずっと顔を合わせていたから微々たる変化にも気づけていたのに、今はタバコを辞めたことにすら気づけなくなってしまった。

今なら俺以外の奴の方があいつのことを知っている。
それが気に食わない、なんて。理由なんて分かりきっている。
俺が透明だった感情に色を付けてしまったから。だから、一緒にいられなくなって手放した。
それを今の今更後悔しているなんて、救えない莫迦だ。

もう表情すら分厚い下手くそな笑顔が張り付いていて読めない。鉄壁の形状記憶ならもうちょっと上手く作れや。
昔の俺だったら、その皮の中がどうなっているのか透視出来だんだろうか。今の俺にはその仮面を剥がすことすら出来ないのに。

お前の心をもう一度見るにはどうすればいいか、考えた。
阿呆なりに頭を捻って考えた。うんと考えた。

「なぁ、」
「………おれ?俺に話しかけてんの?」
「お前以外に誰が居るねん」
「まあそやな。で、どうしたん?俺に話なんて」
「飯行かへん?」

心が見えない、そう見えないだけなのだ。
つまりそこに『存在』はする。要は見えるようにすればいい。
無色透明な水に色水を垂らすように。

「え」
「予定あった?」
「いや、ないけど………あんたからなんて珍しなぁ」

そう言って変わらないあの頃の笑顔で顔を
くしゃりと歪ませた。

(ハートに火をつけて)


作者の自我コーナー
いつもの。分かってるようで分かってないところがありますよね彼ら。彼から動かないとこの2人はどうにもならないだろうなと思います。

5/22/2024, 11:03:57 AM