「理想のあなた」
「そんな人だと思わなかった」そう言われて振られたのは何度目だろう。一体どんな男だと思われて居るのだろうとその度に悩んだ。好いた相手のためならば理想を演じてやろうと思うのに、それが分からないからいつも上手くいかなかった。
なんてことの無い会話だった。いつも通りの、大して中身も無い、数時間後には忘れているような。些細なことで笑いあったその顔が、今まで幾らでも見てきた筈の顔が、胸に刺さって離れなくなった。俺は挙動不審では無かっただろうか。視線を外して、それでも脳裏から消えない彼の顔に絶望した。彼を、好きになってしまった。何度も吐かれた言葉が谺する。彼は俺を、どんな人間だと思っているのだろう。
5/20/2024, 12:05:01 PM