鯖缶

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公園のベンチに座り紙カップを両手で包み込むように持つと、冷えた指先がじんわりと温まる。そのままカップ蓋の飲み口に唇を寄せていくとふわりと甘い香りが鼻をくすぐった。
「やっぱり甘過ぎて飲めない…替えて」
隣に座る君にカップを差し出す。
「飲めないなら買うなよ」
苦笑いでスマホから顔をあげた君は、それでもすぐに自分の持っていた紙カップを「はい」と渡す。
「甘いのが飲みたい気分だったの」
「いつもブラックなんだから…って、ほとんど飲んでないじゃん」
カップを交換するとすぐに呆れたような声。
飲んでないからね、という言葉を君から受け取ったコーヒーで流し込む。
「あー、あまうまー。ココア? チョコ? 何これ?」
チョコという言葉に早る鼓動をなだめるようにスマホを取り出し、さあ何か甘そうだったやつと何気なく答える。
今はこれで精一杯。
まだ甘くない、君と私のバレンタイン。

2/14/2023, 11:13:13 PM